陸上競技部 Good Loser
陸上競技部 2016年07月11日
いつも、競技会での選手たちの駆け引きをレポートしてくれる陸上部顧問の尾花先生が、お忙しい中、関東大会のレポートを寄稿してくれました。今回のテーマは、
"Good Loser"
試合で一番重要なことと言えば、もちろん勝つこと…ですが、これからの競技者として、また、人として大切なことは…負けてしまった後の態度、振る舞いにあると言います。子ども達の成長に目をくばり的確なアドバイスをする尾花名監督のレポート…胸が熱くなります。
陸上競技部の尾花です。6月17日から東京の駒沢オリンピック公園陸上競技場で岡山インターハイの最後の関門となる関東高校陸上が開催されました。関東大会は今年も北関東・南関東に分かれ、北関東は埼玉・群馬・栃木・茨城の4県から、それぞれ各種目(混成競技・競歩を除く)6名、リレーは6チームの24名・24チームが出場し、上位6位までが全国大会出場となります。今年は県大会を突破した5名がインターハイを目指して熱い戦いに臨みました。
我々の目標は5名全員のインターハイ出場でした。結果は4名のインターハイ出場が決まり、1名が関東で涙を飲むことになりました。
決まった4名は女子走高跳優勝の小池芽生(2年)、男子走高跳2位の秋山智也(1年)、同じく男子走高跳3位の森山健太(2年)、男子400H4位の後藤レンズダレル(3年)です。優勝から4位まで一つずつ。結果だけをみれば比較的上位で全国出場を決める事が出来ましたが、一人一人に、やはり全国出場を決めるドラマがありました。そう簡単に決まらなかった者もいます。しかし、彼らには、このあと岡山の地でもう一度、大きなドラマが待っているはずです。それを信じて、あえて勝者の4名は今回は結果だけにしておきたいと思います。
今回は、一番悔しい思いをしている主将にして男子走幅跳に出場した齋藤隼のことを書きたいと思います。
今回の関東大会、5人の中で、先陣を切ったのは小池でした。チームにこれ以上ない勢いをつける優勝。そして、その上げ潮ムードの中で登場したのが、齋藤でした。自己記録の7m20はこの舞台でも北関東のメンバーでは楽に6位以内に入れる記録です。うまくいけば小池に続いて男子幅も優勝。そんな期待を抱かせる中で競技が始まりました。
24選手が出場し、最初の3本でTOP8を決めます。1本目6m87をマークし5位につけます。まずまずの1本目でした。これで2本目に勝負をかけられます。1本目がファールや低調な記録だと、2本目も失敗すると残り1本は絶対に記録を残しにいかなくてはなりません。ですからどうしても慎重になります。それが1本目にある程度の順位・記録を残せば、2本目は思い切った勝負がかけられます。しかし、どうも1本目が終わっても、齋藤の様子が落ち着きがないように見えます。何か自分のペース、自分の間をとらせてもらえていない感じでした。嫌な予感は的中してしまいます。2本目、全く気持ちが入っていないかのような中途半端な跳躍で6m33という完全な失敗ジャンプでした。そして2回目を終えて7位まで順位を落としました。このままいけば8位以内ですからTOP8に残って、あと3本の試技となるところでしたが、やはり甘くありませんでした。最後の3回目、第1跳躍者の選手が齋藤の記録を超えて、8位以内に入ってきました。この時点で8位となってしまいました。そして、その後は誰も齋藤を超えることができずに齋藤の3回目の跳躍。確実に決勝進出を決めるために勝負をかけましたが、惜しくもファール。記録を残せず。あとは残りの選手に一人でも抜かれた時点で終了となるサバイバルな展開となり、他の選手の跳躍を待ちます。残り14人を凌げば、まだインターハイへの道は残されます。1人、2人、3人……齋藤の6m87に迫るも抜けないという痺れるような展開が続きます。しかし、残りあと4人というところで、彼のインターハイ出場は夢となってしまいました。結局、この選手だけが上回り、9位で競技終了。
問題は、この後です。まだ、このあとに男子400Hが翌日に、そして男子走高跳が翌々日に控えているのです。監督として、一番、恐れているのは、負のスパイラル、いわゆる連鎖反応で、このあとの競技者が力を出せない状況に陥ることです。そして、その魔の手は、やはりチームの中から生まれてくるものです。特に、敗れた選手の言動は少なからずチームに影響を及ぼします。ましてや、齋藤はキャプテンです。彼の敗戦は、チームに暗い影を落としました。しかし、ここで、彼は悪い流れを自分だけで断ち切ろうとしていました。もちろん、試合直後は悲しく、そして自分自身に腹を立てているのがうかがえました。
でも、その後は、競技のある選手のために、献身的にチームの仕事を率先して行いました。これは切り替えろと言っても、なかなかできることではありません。過去には、このように敗れ去った後に、ダラダラして、自分が負けてしまって全てお終い、もうどうでも良いというような言動をした者もいました。そういう選手に対して、声を荒げることもありチームの雰囲気は更に悪くなることもあるのです。今回の齋藤もそうなってもおかしくない敗戦でした。
しかし、彼はバッドルーザーではなくグッドルーザーでした。これは、監督としては非常に嬉しいです。教えても、気持ちを切り替えて、残りの選手、チームの為にと出来ないものです。その齋藤の思い、行動が翌日の後藤の4位、そして翌々日の秋山の2位、森山の3位へとつながったのだと私は確信しています。もちろん、競技をした選手の頑張りがそれぞれの順位、そしてインターハイの出場権獲得になったのは当然ですが、いくつかの要素がある中で、まず挙げろと言われたら、私は“グッドルーザー”齋藤のおかげだと言いたいです。こんなことを書かれても、彼にインターハイ出場のチャンスはありませんし、どうでも良いことかもしれません。しかし、私は、高校の部活動である以上、勝ち負けも大事だが、それ以上に大事なことがあるということを念頭に日々、指導をしています。それをこのような一番悔しい時に、行動として具現化してくれた齋藤を誇りに思うと同時に、彼が武南高校の陸上競技部のキャプテンで良かったと思います。
岡山では、この齋藤の分まで、残った4名に頑張ってもらいます。残り3週間を切り、ここからが、いよいよ大事な期間になります。インターハイが終わったあと、また、ここで皆さんに良い結果報告ができるよう、部員・顧問共々頑張りたいと思います。