日本サッカーを強くしたい!
サッカー部 2018年05月11日
プロサッカー指導者 池田太監督 武南高校大山照人前監督 対談
「ご無沙汰しています。」
「おお~フトシ!」
力強い握手でサッカー談義が始まりました。武南高校サッカー部を率い45年、大山先生のお気に入りの教え子のひとり、池田太さんが母校を訪ねてくれました。池田さんは、現在、JFA所属のプロサッカー指導者としてU-20日本女子代表監督をつとめられ、フランスで8月に行われるFIFA U-20女子ワールドカップに向け、お忙しいのにもかかわらず、時間を作ってくださったのです。サッカーを愛するお二人のお話は、華麗で強い武南のパスサッカーを知っている者の心を熱くするものでした。
〇池田監督がサッカーを始めたきっかけから教えてください。
池田監督:三人兄弟の末っ子の私は、姉に連れられて小学校でサッカーボールを追い始めました。姉は、中学からはバスケット部に入りましたが、私は足が速かったということもあって、そのままサッカーを続けました。クラブチームが多く存在しない時代ですから、地元の中学校でサッカーを続けようと思っていました。中学校にサッカー専門の先生がいらっしゃらなかった時には、なんとか先生にお願いして…笑…大会に出ていました。
〇なぜ武南高校サッカー部を選んだのですか?
池田監督:武南高校を進学先に選んだのは、当時の武南は全国大会常連校であり、私も、“選手権大会に出たい“その思いが強く選びました。当時、部内には、『サッカー王国』埼玉で中学時代名を馳せた選手がたくさんいたので、「入部してどう思いましたか?」という質問をよく受けるのですが、3年生はさすがに体が出来上がっているなとは思いましたが、他人と自分のテクニックとを比べて、悲観するとか、楽観的になるとか…そういうことはありませんでした。ただ、ひたすら自分が不足しているところを鍛え、ストロングポイントを強化しようということだけ考えていました。そうですね~やたらスライディングしていたな~って、今、グランドを見て思い出しました。笑 当時は土のグランドだったけど…。
〇大山先生は当時の池田さんのことをどう思っていらっしゃいましたか。
大山先生:フトシは入学した時からフレッシュで、好青年。中学の時のポジション、フォワードで育てようとしたんだけど、性格的にまじめすぎた。笑 フォワードの選手には、相手とケンカするぐらいの強引さ、切れ込むズルさが必要なんだ…言葉は汚くきこえるけどな。笑 フトシにはボールに飛び込んでいく勇気はあるのだけど、ズルさが足りなかった。でも、逆に言うと、顔をあげてプレーをしようとする選手であり、全体に目を配れる選手ということでしょう。だから、センターフォワードからセンターバックにコンバートしたんだ。
池田監督:先生はほんとうによく見て下さっていて、いつも驚かされました。私は、武南に声をかえてもらって入学した選手ではなかったので、ボール拾いや声だしから始まって、チャンスを頂いたら期待に全力で応えようとする。そうやって、Bチームから一歩一歩TOPチームまで上がっていきました。なので、武南のキャプテンは、毎年恒例で、投票で決めているのですが、這い上がっていった自分を支持してくれる仲間が多いのも当然で…笑、キャプテンに選ばれたんですよ。笑
大山先生:あの時は、こちらの意図と選手たちの気持ちがバッチリはまったね。フトシのことは満点に近い生徒だという印象を持っていた。フトシの人間性、キャプテンシー、チームをまとめる力は素晴らしかった。フトシの代…武南は埼玉で負けたことはなかった。1年間で負けたのは2回だけ。ひとつは、神戸でやったインターハイ。実は、準々決勝と準決勝の間に休養日があって、気分転換に難波花月に連れってたんだよな。笑 それがいけなかったのか…準決勝で古河一に1点とられた。もう一回は選手権。あの時は両サイドバックが故障していて…な…市船にやられたんだよ。フトシの代は勝率9割を超えていたからね。これは武南歴代TOPの勝率だ。
池田監督:そうでしたね。先生は、試合で厳しい要求をする時と、自分たちに任せてくれる時があって、緩急、メリハリの大切さを教えてくれました。私が、高校時代一番覚えている試合は、埼玉県の決勝で大宮東との一戦です。声を掛け合いチームが一丸となる感覚、“一体感”を一番感じた試合です。それから、高校生活でいえば、体育祭の時、生徒が先生を仮装する競技があったのですが、大山先生を“独眼竜正宗”にしましたね。笑 あの時の先生のギャップの激しさに驚いたことを覚えています。
〇高校サッカーを半世紀みてこられて、何か感じることはありますか?
大山監督:時代の流れとともにサッカーも変わっていく。昔は、サッカーは「型があるもの」だった。どこのチームにもワンツーパス、ワンタッチで叩いて…というようなチームの決め事があった。地面を這うようなシュートを練習し、走り込んで、走り込んで、チームの決めた型を試合で展開する。今は、日本人の生活習慣も変わったから、選手の体型もスリムになって、足も長いし、弱々しいという感じもない。ボールを扱う個人のテクニックも素晴らしく、セリエAの選手のような、ふわ~と力を抜いたループシュートを平気で決めたりする。この局面でどういうパスを選択するかという発想も含めて選手はうまくなっている。こういう「個」のテクニックとしっかり走り込むことの両方をやっていかないと全国では勝てない。そういうことをやった前橋育英が今年選手権で優勝したでしょう。
池田監督:そうですね。高校サッカーをこころざしている選手には、一日一日を大切に。ひたむきな向上心を持ってがんばれ!って言いたいですね。
大山先生:これからサッカーをやりたいという選手には…ボールとなじみ深いというか、ボールと友達というか、ボールを上手にコントロールできるようになって欲しい。うまくなりたい、強くなりたい、勝ちたいという意思をしっかり持ち、走ることもいとわない。そんな選手に武南に来てきてほしい。そして、我々コーチ陣が、選手の持つ良いものを引き出したい。
〇これまで多くの選手が大山先生のもと、武南サッカーで鍛えられてきましたが、卒業生に望んでいることはありますか?
大山先生:フトシのようにサッカーで道が拓けた人は、勉強して欲しい。大いに母校を代表して切磋琢磨して欲しい。日本のTOPを目指し、自分の努力を怠るなと言いたい。
サッカーから離れたOB達にも、高校時代のサッカー部での経験を忘れないで欲しい。健全な自分の人生を送って欲しい。これは、世帯を持ったなら、たまにはスポーツを家族で楽しむ時間を作って明るく暮らす。そんな姿を見るのがオレはしあわせなんだ。堂々と胸を張って生きて欲しい。ゲームの中で、色々な局面で判断をしてきたのだから、オフザピッチの時も判断を誤るな。楽を選ぶのは弱い自分。正しい方向に導く、がんばらなくちゃなと思うのは強い自分。たかがサッカー、されどサッカーなんだけどな。
〇池田監督にかける言葉をお願いします。
大山先生:フトシもそうだけど、我々は日本サッカーを強くしようという意識を持ってやっている。一人でも良い選手を育てて欲しい。日本に貢献できればオレもうれしい。
〇最後に代表監督しての抱負をお願いします。
池田監督:選手たちには世界大会を通じて成長してもらいたいって思っています。私も頑張ります。応援よろしくお願いします。
「素敵な時間をありがとうございました。」…そう言って池田監督は学校をあとにされました。
よその高校も立派な人工芝グランドを設営し強化をはかり、“紫風イレブン" 武南に挑んできます。都内近郊、閑静な住宅街にある武南高校は、これ以上、グランドを拡張することはできません。ハード面に投資はできなくても、武南でハートを鍛えられた人がいる。大山先生と楽しそうに、かつ、真剣にサッカー界の未来を語る池田代表監督を見ていて、"人こそが武南の財産"。かけがえのない財産なんだと気づかされました。池田監督ありがとうございました。サッカー界を盛り上げていきましょう!