強くて優しい山男
ワンダーフォーゲル部 2015年09月08日
「突然、学校にお手紙を差し上げてしまい…
「突然、学校にお手紙を差し上げてしまい、いったい誰からだろうとご心配されたかも知れませんね。」
そういう書き出しで始まるお手紙をいただいたのは、2学期が始まってまもなくのことでした。丁寧にしたためられた手紙は続きます。
「私たちは7月末、北八ヶ岳黒百合平で、夫婦でテント泊デビューし、ワンゲル部のみなさんにお世話になった者です。思いだしていただけましたか? みなさんにいただいたお好み焼きとぜんざいがお腹にしみ渡り、改めて感謝の心をお伝えしたいという思いに駆られ、お手紙を書きました。」
今年の夏のワンゲル部の活動拠点は、長野県、八ヶ岳連峰の北部、通称『きたやつ』でした。夕立が過ぎ心地よい風、秋茜が数匹飛んでいる北八ヶ岳。さほど広くない黒百合ヒュッテ前幕営地は3張りのテントのみ。前日までの混雑とうってかわった大変静かな午後の幕営地でのことでした。
1年生のA君、I君は初めての本格的な高山でのテント生活。入山し数日経ったということもあり、徐々にテント生活にも慣れて、夕食準備に取りかかろうとしていました。丁度そこへ、素敵な登山ウエアー姿の初老のご夫婦が到着され、すぐそばでテントの設営を始めました。
『こんにちは』
『こんにちは』と、山の挨拶。
お二人はこの山行がテント泊デビューとのことでした。テント設営に少し手間取られているようでしたが無事にテント設営は完了。重い荷物、悪い足場、急登でお疲れなのか…、その後はお隣のテントのお二人はお休みのご様子。
静かなになった隣のテントを見守りながら、夕食の準備をする新人部員は、入山日に、自分たちも同じように体力を消耗したことを思いだしていました。
『幕営地の直前の急登は苦しかったね。』
『僕は舎利ばて(長時間の登山行動で、体力消耗が激しく動けなくなるhunger knock現象)で辛かったヨ。』
『初日は、夕食つくるのも辛かったしね。」
入山3日目ともなれば、高校1年生の若者たち、すっかり体力も回復し、食欲も旺盛。明朝は下山ということもあり、リュックの中の食材・メニューに余裕があることに気づきました。そんな彼らから、温かい言葉がこぼれてきました。
『お隣のテントの二人大丈夫かな?』
『先生より年上じゃない?』
『夕食はカップヌードルだけみたいだったよ。』
『大丈夫かな?』
部員たちは、見知らぬさっき会ったばかりのお二人のことがとても気になるようでした。
相談した二人は、腰を上げ、行動に移し、隣のテントへと向かいました。
『あの~。僕たちは埼玉県の高校生です。僕らがつくった夕飯ですが…、沢山つくりすぎたので、よろしければ、如何ですか?』
『デザートにぜんざいもあります。』
と…声をかけたのです。
本格的な山登り初体験という高校1年部員達の、“山の仲間”に見せた初々しいやさしさに対して、K様ご夫妻からのお手紙には、こう綴られていました。
「私たちの山歴はけっこう長いのですが、宿泊はいつも山小屋。あの日は、私たちにとってのテント泊デビュー、最低限の荷物にした結果、本当に惨めな食事でした。色々な食材を使って工夫された料理はとてもうらやましいものです。学生さんは慣れない料理も、知らない人に それを届ける勇気も大変だったと思いますが…。その優しいお心遣いうれしくて…、本当にありがとうございました。山は登るたびに何かを教えられます。今回のように人の暖かさであったり、時には自然の厳しさだったり…。まして、若い学生さんにとっては、関連する知識を身につけたり、事前の準備をしたりすることが、登った時の感動とともに生きる力になっていくと信じています。」
一気に手紙を読み終えて、部員達の心にも何かが届いたのが見て取れました。
『両親にこの手紙を読んでもらいます。』
『うちのおじーちゃんに見せます』と、はにかみながらも、うれしそうでした。
顧問の山下先生も甚く感激されていました。
「K様ご夫妻からのお手紙。登山初心者の生徒へは体力・技術以外の『何かをつかんで、益々の人間的な成長』促進となったと喜んでおります。素敵なお手紙を頂戴したK様ご夫妻へ、顧問として心からの御礼を申し上げます。」
”強くて優しい山男”…温かい気分になりました。
※ワンゲル部には女子部員もいて、普段の日はみんなで荒川沿いなどを歩き鍛えています。