『昭和史戦後編1945-1989』浅岡先生のオススメ
2020/04/15
『昭和史 戦後編1945-1989』(半藤一利著 2009年 平凡社)
令和という元号もすっかり馴染んだ現在ですが、諸君にとって前の元号の平成は自身が生まれた時の元号であり、また育った元号でもあり、それゆえに平成に愛着を持っているはず。では平成の前の元号である昭和の印象はどうでしょう?生まれたわけではないし、学校教員や保護者から「昭和はね、〇〇だったんだよな」という話を聞くくらいの認識ではないでしょうか。また日本史の教科書を読んでみても、主に「軍国主義の広がり」「戦争」「敗戦後の復興」のことに主に焦点が当てられ記述されていることが一般的です。
ただ、歴史学的に平成という時代を表現する時に昭和を用い「平成=ポスト昭和」という言い方がよくされます。これは「戦争勃発など激動の昭和を引き継ぎ、その後の時代をどう歩むか」が平成の位置づけとなります。このように平成は昭和と強いつながりを持っています。つまり平成を知るためには昭和を知ることが大事です。また昭和の高度経済成長の時代に作られた高速道路の耐久性に問題が生じ、平成を越えて令和の現在にその補強工事の必要性が出ていることなど見ても時代は繋がっていることがわかります。昭和を知ると平成だけでなく、令和のこれからもわかるかもしれませんね。
この著は昭和における主な歴史的ターニングポイントを民衆というミクロな目を通して描いています。その複数のミクロな目を集め、歴史的事象をマクロに描いているため、非常に読みやすく、昭和という時代をわかりやすく知ることができます。昭和を経験したことのない諸君にも、また昭和を懐かしく思い返したい世代の人も呼んでほしい一冊です。
『大地』パール・バック
【 作者について 】
パール・バック(一八九二年生~一九七三年没)はノーベル文学賞、ピューリッツァー賞を受賞したアメリカの女性作家です。両親の仕事の関係で幼少期を中国で過ごし、結婚後も中国で暮らしました。そのため清朝末期から中国共産党、国民党の提携・分裂という激動を目にしながら、激動の時代を生き抜く民衆を目の当たりにしながら生活していました。そこで一九三一年に書かれたのが『大地』です。
【 著書紹介 】
物語の舞台は近代中国、主人公である農民の王龍を中心に描かれます。王龍は貧しい立場にありましたが、実直に働き、「土地はなくならない」という妻や先祖の言い伝えに従い、蓄えた財で少しずつ土地を買っていきます。やがて時流にも乗った王龍は富豪の土地も全て購入するくらいに成長し、地域で知らない者はいないくらいの富豪へと成長します。また家族に囲まれ一見すると何不自由ない暮らしをしているように見える王龍一家でしたが、父親の苦労を見て育った三人の息子たちは「土地=自分たちを縛りつけるもの」というイメージがあり、土地に対する意識は父親と異なるもので、家族内に亀裂が入り始めます。やがて「土地に根差した生活をし、土地を大事にするように」という王龍の遺言とは反対に、王龍の死後三人の息子は土地を離れようと画策・実行します。長男の王大は開墾をせず寄生地主になり小作農からの恨みを買い、次男の王二は土地を売り払いそれをもとに商売の道に、三男の王虎は土地から離れ軍人になっていきます。そして土地という共有物を失った三兄弟はそれぞれの道を歩み始め、時代に翻弄されながら生きていきます。最初は土地から離れ比較的順調に生活していた三兄弟とその家族たちでしたが、やがて起きた戦争や革命により、王大一家は地方へ避難、王二一家は軍に襲われ、軍閥だった王虎は政府軍に討伐されるなどしていきます。土地を手放したことにより困窮し、土地の重要性を再認識した三兄弟でしたが、王虎の息子である王淵だけが違いました。王淵は祖父の王龍のように土地に対する思い入れがあり、当初より父親に強いられた軍人の立場を捨て近代的な農民として生きていくことになります。
【 注目してほしいところ 】
移り行く時代とそれに翻弄される様々な階層の人間の心理や行動の描写を見事に描いていて、さらに当時の中国だけでなく現在の中国にも通ずる性質も読み取ることができます。「時代が経っても人々の生活の根底には土地がある」著者はこのことを一番言いたいのかもしれません。だから「大地」という作品名なのに「大地」という語があまり出てこないのかもしれませんね。
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